友人惠藤憲二の話
私の愉快な友人である惠藤憲二の話をしよう。
おおよそ私が知る限り最も頭のよい人物でもある惠藤憲二だが、いよいよすごいことになってきたらしい。例によっていつものスタバで彼がさらりと宣言した。
「とりあえず天才の模倣をしようと思う。とりあえず真賀田四季あたりから」
一瞬前までは、「建造物の遺伝的アルゴリズムについて」というの議論をしていた筈だったのだが、相変わらず惠藤憲二の展開は読めない(いま気が付いたのだが「遺伝的アルゴリズム」という単語の使い方を間違えている)。
ちなみに真賀田四季とは、森博嗣氏の推理小説に登場する架空の天才である。一度目にしたものは決して忘れないだけなく、その記憶も劣化せず、その内部に複数の人格を有してそのすべてが天才という夢のような天才である。
あれだけ本を読んでおいておきながら惠藤憲二がこの手の推理小説を読んでいたとは意外だが、もしや先日クアッドコアなどと言っていたのはこの伏線だったのだろうか。
「実はすでに記憶の宮殿ならぬ記憶の姫路城は建造済みだ。」
それはハンニバル・レクター(ちなみに「羊たちの沈黙」に登場する人物)ではないのかな。とツッコミをいれるのも野暮っぽかったのでほおっておいたが、姫路城は惠藤憲二の特にお気に入りの建造物のひとつだ。そういえばこちらもつい先日見学に連れて行かれた。この為か。
なお、記憶の宮殿とは細部まで記憶している建造物を記憶の「鍵」とする特殊な記憶術のことで、古くは中世の貴族たちが演説の原稿などを宮殿の細部を用いて記憶したという手法がその名の由来らしい。余談だが通常は自分の部屋を使用する。
人選は間違えているような気もするが、天才になるために天才を模倣するというのはいいアイディアだと思う。途方もないアイディアでも現実味のある方法を積み重ねて理想に近づけようとするこの奇妙な友人、惠藤憲二の姿勢は素直に尊敬する。
今日も今日とてスタバでコーヒーを飲みながら、彼は脳内の姫路城の中に知識を収めているのである。
ところで建造物の遺伝的アルゴリズムについての話題はどこにいったのだろう。